「時生」東野圭吾

オススメ度 ★★★☆☆ 3/5
以前より東野圭吾作品の中で傑作の部類に入ると聞いていた作品。文庫化にあたって手に取ることにした。
宮本拓実(みやもとたくみ)と麗子(れいこ)の息子のトキオは数年前にグレゴリウス症候群を発症し、まもなく最期の瞬間を迎えようとしている。
グレゴリウス症候群とは遺伝病で、十代半ばに発症し、運動機能を徐々に失った後、意識障害を起こし、最終的に死に至るという病気である。トキオがグレゴリウス症候群を発症するであろうことは生まれる前から、予想されていたにもかかわらず、二人の意志で産むことを決意したのである。
そして、病院のベンチで二人は「本当に産んだことは正しかったのか」そんな葛藤をする。麗子(れいこ)は言う。

「あの子に訊いてみたかった。生まれてきてよおかったとおもったことがあるかどうか。幸せだったかどうか。あたしたちを恨んでいなかったかどうか。でももう無理ね。」

そんなとき、拓実(たくみ)は昔トキオに会ったことがあることを思いだし、麗子(れいこ)にその出来事を語り始める。物語は拓実(たくみ)の回想シーンを中心に進む。
20年前の世界で、拓実(たくみ)はトキオは浅草の花やしきで出会い、行動を共にする。
拓実(たくみ)とトキオが知り合ったホステスの竹美(たけみ)は、若くて未熟な拓実(たくみ)に言う。

苦労が顔に出たら惨めやからね。それに悲観しててもしょうがない。誰でも恵まれた家庭に生まれたいけど、自分では親を選べ変。配られたカードで精一杯勝負するしかないやろ

そしてトキオもまた拓実(たくみ)にいろいろなことを訴える。

「どんな短い人生でも、たとえほんの一瞬であっても、生きているという実感さえあれば未来はあるんだよ。明日だけが未来じゃないんだ」

物語のテーマを単純に受け取るなら、「生まれてきたことは幸福なはずだ」という解釈で間違いないと感じるのだが、それでは浅いように感じた。なぜならそれが多くの人間に共通するものとは決して思えないし、特に思春期という人格形成の初期にグレゴリウス症候群を発症したトキオがそんな前向きな考えを維持できたとはとても思えないのである。実在する人間の心はもっともっと複雑なように感じたのだ。
むしろ「記憶は事実に応じて塗り替えられる。」という別の解釈が僕の中に残った。つまり、過去にトキオと会ったという記憶は、拓実(たくみ)と麗子(れいこ)が心の葛藤から逃れるために無意識下で作り出したもので、現実に起きたことではない。というものである。そんな解釈は深読みしすぎだろうか。
どうやらグレゴリウス症候群も作者が作り出した架空の病気である。読みやすい文章と、スピード感のある物語で、読者を引き込む手法は相変わらずだが、実在の病気と絡めるなど、現実世界ともう少しリンクした物語で、面白さと同時に興味や好奇心を喚起してくれる作品を僕は求めていて、感動はするものの少し物足りなく感じた。ただ、「複雑なことを考えずに感動したい」という人には好まれる作品だと思った。
この作品と同様に遺伝病をテーマとした作品として、鈴木光司の「光射す海」が思い浮かぶ。こちらは実在の病気をしっかりと取り入れていて非常に完成度が高くオススメである。
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「「時生」東野圭吾」への1件のフィードバック

  1. 最高ですよねっ!!
    最後のシーンはすごい感動して、涙が止りませんでした・・・泣
    本当に、時生は読んで損はない本です!
    すごいお勧めです!!

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