どこの書店にもデザイン関連の本を扱ったエリアがある。大部分が簡単に見た目を良くするための工夫だったりと、どちらかというとデザイン初心者向けの本で、ターゲットとなるのはせいぜい5年程度までのデザイン経験を持つデザイナーか、またはちょっとデザインをかじってみたい非デザイナーだろう。
どれも一冊1,500円から2,000円程度するので、デザイナーになりたての頃は頑張って買って読んだかもしれないが、デザイナーとして経験を重ねるに従って、内容も知っていることばかりになるので、次第に遠ざかっていくことだろう。
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しかし、初心者を脱したかけたデザイナーにこそ、このようなデザイン本をこれまでとは異なる視点で読むことをお勧めする。なぜなら、デザイン書籍には、デザインを説明するための言葉が詰まっているから。
そもそもデザイナーの求められる能力とは何か。デザイナーとして最初に求められるのはもちろん一般的なデザイン作成能力、つまり見た目を良くする能力である。そして、その後、経験を積むに従って徐々にビジネス目標とデザインをより密接に関連づけるための橋渡しとしての役割も求められていく、つまりデザインを非デザイナーに説明するコミュニケーション能力である。
ここでデザインを説明する語彙が必要性が強くなってくる。デザインに限った話ではないが、「伝える」とは、自分の言葉で語ることではない。相手の理解しやすい言葉を選んで感覚的に理解させることである。そのためには自分の説明スタイルを一つ持っていて常にそのスタイルを貫いたところでまったく意味はない。言葉や表現を相手や状況に応じて使い分けなければならないのだ。
そんなデザインを表現するための語彙がデザイン本には詰まっているのである。デザイン本を見ながらデザインでなく言葉を覚える、という矛盾した行為だからこそ見過ごしがちであるが、ぜひデザインコミュニケーション能力向上の手段として選択肢に入れていただきたい。